2025年12月1日月曜日

12月のエイプリル・フール

今年も残り1か月になりました。
僕には毎年この時期になると、その年に聴いた音楽を振り返る習慣があります。
新譜に加えて、リマスター盤の再発売などでたくさんの音楽に触れた今年、僕の中でいちばん大きな発見だったのが、アーティスト「EPO(エポ)」でした。

EPOは、1980年代を中心に活動してきた日本のシンガーソングライターです。
そんなEPOさんを改めて聴き直すきっかけになったのが、シンガーソングライター・大橋トリオのラジオでオンエアされた「ある朝、風に吹かれて」でした。大橋トリオがおもしろいと思う日本のポップス=「JP(昔から今までの日本のポップスの総称)」特集の1曲目で、最初に耳にしたときは、どこかフォークデュオ「ゆず」のような、洗練されたアコースティック・サウンドだな、というのが第一印象でした。



改めてフルで聴いてみると、EPO本来の透明感のある声や、おしゃれなコード進行に加えて、バンドのグルーヴが一体になったライブ感のあるセッション、どこかエスニックな香りのする音作りが印象的でした。
それまで僕がイメージしていたEPO像を、いい意味で壊してくれた1曲でした。

EPOと言えば、多くの人が思い出すのは、フジテレビ系『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマ「DOWN TOWN」や、「土曜の夜はパラダイス」、資生堂のコマーシャルソングとして大ヒットした「う、ふ、ふ、ふ、」かもしれません。
最近では、「う、ふ、ふ、ふ、」が日本マクドナルド春の『てりたま』のCMソングとして使われていて、曲名を知らなくても耳にしたことがある人は多いと思います。


「う、ふ、ふ、ふ、」のシングル盤を見つけたので即決。B面の「無言のジェラシー」はアルバムとは違うテイクだということを初めて知りました!


僕自身も、小さい頃から「う、ふ、ふ、ふ、」が収録されたアルバム『VITAMIN E・P・O』が好きでよく聴いていましたし、ラジオ番組風に構成されたコンセプト・アルバム『JOEPO〜1981KHz』は、一番聴いた1枚です。
ただ、その頃の僕は、ポップさやメロディーのキャッチーさばかりを追いかけていて、EPOの後期の、より内省的なアルバムにはほとんど触れていませんでした。

ラジオだけでなく、今年は別のところからもEPOを猛烈に推す声に出会いました。
それが、函館の「BAR METEO RECORDS」の店主さんです。たくさんのレコードが並び、ふだんはソウルやR&Bの洋楽がかかっている、おしゃれな隠れ家的なバーです。お客さんに合わせて山下達郎や竹内まりやのレコードをかけることはあっても、本当は洋楽を流していたいタイプのお店だそうです。

その店主さんが、唯一と言っていいほど強く推していた日本のアーティストがEPOでした。なかでもシングル「白い街 青い影」はかなりのお気に入りのようで、「これは洋楽に匹敵するよ」といつも紹介しながら、嬉しそうにかけてくれます。



この曲をきっかけに、洗練されたポップさだけでなく、セッションの妙やアレンジの細やかさ、一瞬の出来事をショートムービーのように描き出す歌詞の世界に、僕は改めて気づかされました(歌詞でいちばんのおすすめは「雨のめぐり逢い」という曲です)。
それをちゃんと知りたくて、ほぼすべてのアルバムとシングルを聴き直していく中で、「DOWN TOWNラプソディー」という曲のテレビ映像に行き当たりました。

このパフォーマンスがまた強烈です。コーラス・デュオは、「め組のひと」で有名な「Martin」こと鈴木雅之。バックの演奏は、名バンド・センチメンタル・シティ・ロマンスです。生歌唱・生演奏で、ここまでR&Bのノリとポップスの楽しさを両立させているセッションは、なかなかないのではないでしょうか。最後のスキャットの掛け合いは、何度見ても鳥肌ものです。



作品を掘り直していく中で、初めて知ったこともありました。
それは、これだけたくさんの良質なサウンドを残しながらも、EPO自身は「毎回ヒット曲を書かなければいけない」というプレッシャーに長く苦しんでいた、という事実です。先ほど触れたパフォーマンスの後、EPOは渡英し、ヒットチャートを狙う路線とは少し距離を置きながら、「音とは何か」「生きるとは何か」といった、より哲学的な問いを音楽で表現していくようになります。ヒットを狙った路線ではないけれど、アーティストとして本当に伝えたいことが、むしろはっきりしてきた時期のようにも感じます。

EPOを聴き直すプロセスは、同時に、僕自身の音楽の聴き方を見直すきっかけにもなりました。どのアーティストについても、ヒット曲という“上澄み”だけを聞いて終わりにするのではなく、アルバムを通して聴いて、背景や時代の空気を想像しながら、そのアーティストの思いを丁寧に感じ取ろうとしないとな、と考えるようになりました。

クリスマスの時期になると、ラジオでかかるEPOの「12月のエイプリル・フール」。
タイトルからして、ありそうでなかなか思いつかないおしゃれさがあります。後半の急激な転調は、今っぽくはないかもしれませんが、歌われているジェラシーや揺れる気持ちは、今でも十分に共感できるものだと思います。


みなさんの、2025年をかたどる音楽はなんですか?


千葉