2025年12月10日水曜日

My Gift to You

ちょっと早いですが、今年のクリスマスプレゼントが届きました。

サンタさんの正体は、函館のミニシアター「シネマアイリス」のオーナー・菅原さんです。

なぜ映画館のオーナーが?と思われるかもしれませんが、僕はこのシネマアイリスでボランティア兼アルバイトをしています。
シネコンと呼ばれる大きな映画館とは違って、監督さんがインタビューに来てくださったり、地域の映画好きの方と話ができたりする、「ここでしか作れないコミュニティ」を持った映画館です。

週末はシネマアイリスでお手伝いをすることが多いのですが、そのときによく流れているのがラジオです。
中でも菅原さんと一緒によく聴くのが、AIR-G’で放送されている「山下達郎のサンデーソングブック」(TOKYO FM制作)。

日曜日の14時から1時間、幼い頃から聴き続けてきた番組で、大学に来てからは「シネマアイリスで聴く」のがすっかり週課になりました。僕も菅原さんも、大の達郎ファンです。

そんな達郎さんのコンサートが、今月1日に札幌でありました。
僕は予定が合わず行けなかったのですが、菅原さんが聴いてきたとのこと。後日、ライブの様子をいろいろ聞かせてもらいました。
今年は、バンド「SUGAR BABE」から数えたメジャーデビュー50周年の年。ツアーにもいつも以上に力が入っていて、その分、ファンの熱もすごかったそうです。

その札幌公演のお土産として、菅原さんがプレゼントしてくれたのが「カセットキーホルダー」でした。
ネットで見かけて「いいな」と思いつつ、手に入れるのは難しそうだな…と諦めていたグッズだったので、もらった瞬間かなりテンションが上がりました。これから大切に、大切に使おうと思います。


というわけで、今日の一曲は山下達郎「My Gift To You」。
1993年発売のクリスマス・オーケストラ・コンセプトアルバム『SEASON'S GREETINGS』に収録された、Alexander O'Nealのカバー曲です。
このアルバムのリマスター版が先月リリースされたばかりで、今日10日には、皆さんご存じ「クリスマス・イブ」のシングル盤リリースのボーナストラックとして、この曲のライブバージョンも収録されるそうです。

菅原さんから届いた「ギフト」と一緒に、この曲も、今年のクリスマスの贈り物として、みなさんに届けばうれしいです。



2025年12月6日土曜日

結局、僕の耳は何歳なんだ問題

前回、「今年いちばんの発見はEPOだった」という記事を書きましたが、その後、Apple Musicをはじめ各サブスクで、今年一年の“音楽まとめ”が続々と出ていますね。

僕はSpotifyユーザーなので、毎年「まとめ」が出るのをかなり楽しみにしています。


再生時間やトップソング、よく聴いたアーティストが並ぶのは例年通りなのですが、今年は新しく「あなたのリスニング年齢」という項目が追加されていました。

結果はなんと──68歳





自分でも「同世代よりちょっと古めの音楽を聴きがちだろうな」とは思っていましたが、数字として突きつけられると、さすがに軽くショックです。

とはいえ、今の音楽をまったく聴いていないわけでもないはず…。


そこで今回は、2025年に出会った音楽の中から、特に印象に残った5曲をまとめてみることにしました。


①『Like This Before』/Roomies

2025年が始まって、最初に「これは…!」と引っかかったのがRoomiesでした。

きっかけは、ラジオ局J-WAVEの新譜レコメンド企画「SONAR TRAX」で流れていた、1月のピックアップ曲のひとつ。




英語詞で、ソウル寄りのダンスミュージック。最初は完全に海外バンドだと思って聴いていたのですが、調べてみるとまさかの日本のバンド。

マイケル・ジャクソンを思わせる伸びやかな歌声と、タイトなビートがとにかく気持ちいいです。


1月にリリースされたアルバム『ECHO』も、通して聴いてハズレなしの出来。

まずは『Like This Before』から入って、気に入ったらアルバムごと聴いてもらいたい一枚です。


②『SEASON』/BLACK BERRY TIMES

BLACK BERRY TIMESは、作詞・作曲を担う柳沢碧人(vo,key)と、編曲・ミックスを担う荻原蓮(g)という、現役大学生2人を中心にしたユニットです。


ふたりともジャズをはじめ、いろんな音楽にとても精通していて、ラジオのジャズコーナーをひと月任されていたこともあるほど。

そのおかげで、彼らの音楽だけでなく、ルーツとなる音楽にも触れられて、今年の僕のリスニングの幅をぐっと広げてくれた存在でした。


『SEASON』は、ストリングスアレンジにこだわって作られた1曲。



同じく彼らの『Sugar』『Why』はブラスアレンジがかっこよく、ソウルやファンクの要素が前面に出ています。



ミュージックビデオだけでなく、ショート動画でセッションの様子も見ることができるので、演奏している姿まで含めてチェックしてほしいアーティストです。

↓「BLACK BERRY TIMES」のinstagramサイト
https://www.instagram.com/blackberrytimes?igsh=Z3pxN3JlZjJ5ZWJ4


③『Silent Movie』/Strutman Lane

ここで洋楽枠。

ラジオか何かでたまたま耳にして、「この曲、いつごろの音源なんだろう?」と思って調べてみたら、シングルリリースは去年(アルバムは今年発売なのでギリギリ2025年ということで)だった、というのがこの『Silent Movie』でした。

ブラスロックバンド・Chicagoを思わせるサウンドもありつつ、00年代のポップスのような空気感もある。

親しみやすいメロディなのに、ファンクっぽいビートも効いていて、イントロのアコースティックギターも耳に残ります。


1曲の中で展開がどんどん変わっていくので、「ずっと同じフレーズが流れている」タイプの曲とは違い、ストーリーを追うような感覚で最後まで聴ける一曲。

日本ではまだそれほど名前が知られていないようで情報も多くありませんが、これからも追いかけていきたいバンドです。


④『さいなら』/眞名子新

今年の夏、キリン「氷結」のCMで耳にして覚えている人もいるかもしれません。

アーティスト名は「まなこ あらた」と読みます。

僕はCMより先に曲を聴いたのですが、ギターが前に出て一気に駆け抜けていく感じにやられて、一瞬でお気に入りになりました。

そのあとでCMタイアップが決まったと知って、「やっぱりこれは来るよな」と勝手にうれしくなったのを覚えています。


おそらく、これから毎年、夏の始まりに聴き返したくなるような一曲になると思っています。


⑤『鍋でもやろう』/ザ・おめでたズ、思い出野郎Aチーム

最後は先月リリースされたコラボ曲。

記念日や祝日をテーマに“日常を祝う”ラップグループ「ザ・おめでたズ」と、多摩美術大学で結成されたソウルバンド「思い出野郎Aチーム」によるシングルです。


「思い出野郎Aチーム」は、今年の月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』で、小泉今日子さんと中井貴一さんが歌った『ダンスに間に合う』を手がけたバンドでもあるので、その曲で耳にした人も多いはず。




この『鍋でもやろう』がリリースされた11月7日は、「鍋の日」だそうです。

曲自体もまさに“鍋”のようで、「思い出野郎Aチーム」のソウルフルなグルーヴのうえに、「ザ・おめでたズ」の言葉が具材みたいに乗っかって、それぞれの個性がありつつもしっかり調和しています。

♪レコードとビールを持って~というフレーズが耳に残りますね。

聴いていると、友だちや家族と鍋を囲みたくなる、あたたかい一曲です。



結局、僕の耳は何歳なんだ問題

こうやって書き出してみると、「2025年に出会った曲」ではあるものの、そのルーツをたどるとジャズやソウル、AOR的な場所に落ち着いているものが多いな、と思います。

Spotifyに「リスニング年齢68歳」と判定されても、たしかにそれはそれで納得かもしれません。


いまはPC一台あれば、自宅で完結する打ち込みベースの音楽もたくさん作れる時代ですが、改めて並べてみると、人と人とが同じ空間で演奏している“セッション感のある音楽”にどうしても惹かれているようです。


だから最近の曲でも、アコースティックバージョンやDEMO音源、スタジオセッション映像が公開されていると、そっちのほうを何度もリピートしてしまう。

リスニング年齢がいくつと表示されようと、こういう「人が演奏している気配のする音楽」を追いかけていくのが、自分らしい聴き方なんだろうな、と改めて感じた一年でした。

千葉

2025年12月1日月曜日

12月のエイプリル・フール

今年も残り1か月になりました。
僕には毎年この時期になると、その年に聴いた音楽を振り返る習慣があります。
新譜に加えて、リマスター盤の再発売などでたくさんの音楽に触れた今年、僕の中でいちばん大きな発見だったのが、アーティスト「EPO(エポ)」でした。

EPOは、1980年代を中心に活動してきた日本のシンガーソングライターです。
そんなEPOさんを改めて聴き直すきっかけになったのが、シンガーソングライター・大橋トリオのラジオでオンエアされた「ある朝、風に吹かれて」でした。大橋トリオがおもしろいと思う日本のポップス=「JP(昔から今までの日本のポップスの総称)」特集の1曲目で、最初に耳にしたときは、どこかフォークデュオ「ゆず」のような、洗練されたアコースティック・サウンドだな、というのが第一印象でした。



改めてフルで聴いてみると、EPO本来の透明感のある声や、おしゃれなコード進行に加えて、バンドのグルーヴが一体になったライブ感のあるセッション、どこかエスニックな香りのする音作りが印象的でした。
それまで僕がイメージしていたEPO像を、いい意味で壊してくれた1曲でした。

EPOと言えば、多くの人が思い出すのは、フジテレビ系『オレたちひょうきん族』のエンディングテーマ「DOWN TOWN」や、「土曜の夜はパラダイス」、資生堂のコマーシャルソングとして大ヒットした「う、ふ、ふ、ふ、」かもしれません。
最近では、「う、ふ、ふ、ふ、」が日本マクドナルド春の『てりたま』のCMソングとして使われていて、曲名を知らなくても耳にしたことがある人は多いと思います。


「う、ふ、ふ、ふ、」のシングル盤を見つけたので即決。B面の「無言のジェラシー」はアルバムとは違うテイクだということを初めて知りました!


僕自身も、小さい頃から「う、ふ、ふ、ふ、」が収録されたアルバム『VITAMIN E・P・O』が好きでよく聴いていましたし、ラジオ番組風に構成されたコンセプト・アルバム『JOEPO〜1981KHz』は、一番聴いた1枚です。
ただ、その頃の僕は、ポップさやメロディーのキャッチーさばかりを追いかけていて、EPOの後期の、より内省的なアルバムにはほとんど触れていませんでした。

ラジオだけでなく、今年は別のところからもEPOを猛烈に推す声に出会いました。
それが、函館の「BAR METEO RECORDS」の店主さんです。たくさんのレコードが並び、ふだんはソウルやR&Bの洋楽がかかっている、おしゃれな隠れ家的なバーです。お客さんに合わせて山下達郎や竹内まりやのレコードをかけることはあっても、本当は洋楽を流していたいタイプのお店だそうです。

その店主さんが、唯一と言っていいほど強く推していた日本のアーティストがEPOでした。なかでもシングル「白い街 青い影」はかなりのお気に入りのようで、「これは洋楽に匹敵するよ」といつも紹介しながら、嬉しそうにかけてくれます。



この曲をきっかけに、洗練されたポップさだけでなく、セッションの妙やアレンジの細やかさ、一瞬の出来事をショートムービーのように描き出す歌詞の世界に、僕は改めて気づかされました(歌詞でいちばんのおすすめは「雨のめぐり逢い」という曲です)。
それをちゃんと知りたくて、ほぼすべてのアルバムとシングルを聴き直していく中で、「DOWN TOWNラプソディー」という曲のテレビ映像に行き当たりました。

このパフォーマンスがまた強烈です。コーラス・デュオは、「め組のひと」で有名な「Martin」こと鈴木雅之。バックの演奏は、名バンド・センチメンタル・シティ・ロマンスです。生歌唱・生演奏で、ここまでR&Bのノリとポップスの楽しさを両立させているセッションは、なかなかないのではないでしょうか。最後のスキャットの掛け合いは、何度見ても鳥肌ものです。



作品を掘り直していく中で、初めて知ったこともありました。
それは、これだけたくさんの良質なサウンドを残しながらも、EPO自身は「毎回ヒット曲を書かなければいけない」というプレッシャーに長く苦しんでいた、という事実です。先ほど触れたパフォーマンスの後、EPOは渡英し、ヒットチャートを狙う路線とは少し距離を置きながら、「音とは何か」「生きるとは何か」といった、より哲学的な問いを音楽で表現していくようになります。ヒットを狙った路線ではないけれど、アーティストとして本当に伝えたいことが、むしろはっきりしてきた時期のようにも感じます。

EPOを聴き直すプロセスは、同時に、僕自身の音楽の聴き方を見直すきっかけにもなりました。どのアーティストについても、ヒット曲という“上澄み”だけを聞いて終わりにするのではなく、アルバムを通して聴いて、背景や時代の空気を想像しながら、そのアーティストの思いを丁寧に感じ取ろうとしないとな、と考えるようになりました。

クリスマスの時期になると、ラジオでかかるEPOの「12月のエイプリル・フール」。
タイトルからして、ありそうでなかなか思いつかないおしゃれさがあります。後半の急激な転調は、今っぽくはないかもしれませんが、歌われているジェラシーや揺れる気持ちは、今でも十分に共感できるものだと思います。


みなさんの、2025年をかたどる音楽はなんですか?


千葉