2025年10月31日金曜日

星の海

先週末、初めて室蘭市に降り立ちました。

目的は、南佳孝さんに続いて——吉田美奈子さんと森俊之さん(Pf.)によるデュオコンサートを聴くためです。


「次いで」と書いたのは、実は前回のブログで書いた南佳孝さんと、吉田美奈子さん、どちらも1973年9月21日デビュー。
ともにはっぴいえんど周辺の流れから登場したアーティストなのです。


おそらく、吉田美奈子さんの声は、きっと誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。
スタジオジブリ制作『魔女の宅急便』(監督:宮崎駿)のオープニング曲「ルージュの伝言」では、山下達郎さんや大貫妙子さんとともにコーラスを担当。
もともと演奏がいまひとつだったところを、彼女たちのコーラスが加わったことで、一気にアメリカン・ポップス調の完成度に達したという逸話もあるくらい。

彼女は、荒井由実や山下達郎の初期作品にも多数参加し、他アーティストへの楽曲提供も行う作曲家・シンガー・アレンジャーとして活躍してきました。

“ファンクの女王”と称されることもありますが、実際にはファンクだけでなく、シティ・ポップ、ゴスペル、ソウル、アコースティックといった幅広いジャンルを越境しながら音楽と向き合ってきた人です。

聴き進めるほど、「ジャンルではなく“音楽そのもの”として感じることの大切さ」を気づかせてくれます。

近年のシティ・ポップ・ブームでは、松原みき、山下達郎、竹内まりやなど、いわゆる“定番曲”ばかりが再注目されていますが、僕は、吉田美奈子さんのような音そのものと対話してきたアーティストの存在にも、もっと光が当たってほしいと思っています。


吉田美奈子さんのライブは、小学校2年生のときから何度も足を運んでいます。
そのたびに異なる編成で、新しい表現を聴かせてくれるのが魅力です。

ギターとベースのトリオ、ハモンドオルガンとドラムのトリオ、ピアノとのデュオ、ウッドベースとピアノのトリオ——
同じ曲でも、聴くたびにまったく違う曲のように響きます。


今回の会場は室蘭キリスト教会 グロリアチャペル。
ある方の追悼を、ということで、しっとりとしたナンバーを中心に、心に響くコンサートでした。




1曲目は「30秒の奇跡」という曲。
森俊之さんのピアノ・イントロが静かに響き渡り、そこから空気が変わる。
森さんのピアノを聴くのはこれで何度目かになりますが、僕が知る中で、最も“心に届く”ピアニストです。
音が空気を震わせ、その波が自分の体の内側で共鳴し、鼓動と一緒に響く感覚がします。

1曲目が終わるだけでも、多くの方が感動していました。


本当は、森俊之さんの最新アルバムに収録されている
「悲しみの停まる街」を紹介したかったのですが、残念ながら配信では聴けません。

代わりに、僕が一番好きな曲「星の海」をぜひ聴いてほしいです。
この曲はイラストレーターのペーター佐藤さんの追悼のために作られたもので、今回のコンサートのラストにも演奏されました。





P.S.
まわし者ではありませんが、ピアニスト・森俊之さんの最新アルバム『azurite』は必聴です。

https://azuritelab.com/



千葉

2025年10月20日月曜日

月に向って/Midnight Love Call -南佳孝 Soloisum 2025

先日、小雨の降る中、札幌市時計台2階で開かれた、南佳孝さんのソロライブに行ってきました。





南佳孝さんのギター


札幌の時計台の2階がコンサートホールになるなんて——そんな驚きと、「南佳孝の生演奏を次いつ見られるかわからない」という思いが重なり、衝動的にチケットを購入。
ちょうど先月、「最近、南佳孝のCDやレコードをお店で見かけないね」と家族で話していた矢先に見つけたライブ情報。
行かないわけにはいきませんでした。


南佳孝さんは、1973年9月21日、作詞家・松本隆プロデュースのアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビュー。1979年発表の『モンロー・ウォーク』は、郷ひろみさんによって『セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)』としてカバーされ大ヒット。そして1981年、片岡義男の短編小説を映画化した『スローなブギにしてくれ』の主題歌として書き下ろした『スローなブギにしてくれ(I want you)』が大ヒット。サウンドトラックも手掛けるなど、シンガーソングライターとして確固たる地位を築きました。


彼の音楽は「古い歌」と呼ぶにはもったいない。
時代の流行に流されず、ジャズ、ウエストコースト・ロック、サーフィン・サウンド、デジタル・ポップなど、アルバムごとに異なる世界観で一つの映画を見せてくれるような構成美があります。

それもそのはず——
作詞は松本隆、アレンジには坂本龍一が携わる楽曲も多く、日本のポップス史の中でも特別な存在感を放っています。


午後7時。時計台の鐘の音が鳴り響くと同時に、南佳孝さんが登場。
静かなチューニングから始まるその空間には、雨の音、救急車のサイレン、街の気配までもが混じり合い、まるで映画のワンシーンに迷い込んだような緊張感がありました。

初めて生で聴いて感じたのは、「一人で演奏しているように聞こえない」ということ。
ギター一本の演奏なのに、そこには確かなビートがあり、バスドラム、スネア、シンバルが呼吸しているかのように響いていました。
観客全員が同じリズムで揺れ、メロウなナンバーではまるでチークダンスを踊るように“ノッて”いたのが印象的でした。


「今年の夏は本当に暑いね」と南さん。
「いつもは秋の気配がする9月に歌う曲なんだけど、今日はやっと北海道が少し涼しくなったから」と披露されたのは、『月に向って』。
作詞はもちろん、松本隆。
やさしく包むギターの音と声に、夏の終わりの風が重なりました。




その後はピアノの弾き語りに変わり、再びギターに戻りながら、ファンに人気の曲や最新アルバムからのナンバー、そして杉真理のカバー『ウイスキーがお好きでしょう』などを披露。
会場が少しずつ温まり、窓が曇りはじめたころに流れたのが『Midnight Love Call』。
外の小雨の音がまるでSEのように、音楽に溶け込んでいました。


ライブの最後は、代表曲2曲で締めくくられ、その後のサイン会では、購入したCDに直筆のサインをいただきました。



今は配信で何でも聴ける時代ですが、アートワークを眺め、歌詞の世界に入り込み、ライナーノーツから作品を深掘りする——
そんな楽しみはCDやレコードだからこそ味わえるものだと、改めて感じました。

配信よりも現物のレコードで。
そして、レコードよりも生のライブで音楽に触れる——
そんな喜びを、久しぶりに強く実感した夜でした。

千葉